2019年10月05日

「本と大学と図書館と」 -11- 建築は何でもあり

 「建築は何でもあり」は,20年前に自宅を建てたときの建築家から聞かされた言葉です。建築家のH氏が,僕らの最善な暮らしを,必ず実現してくれるプロだと感じた瞬間でした。
 夫婦二人の暮らし方のイメージを伝えてください。車より桁違いに高価な買い物ですから,考えてきたことを,遠慮なく,何でも話してください。建てた経験がない家であり,一生に一度の買い物で,この機会にあれもこれもと,気が大きくなります。工務店の薦めには慎重になること。住みはじめて,最初は建築が人を支配し,人はそこで暮らすうちに,今度は,人が建築を支配する。長いサイクルになります。
 僕らと,家とH氏との長い付き合いのはじまりでした。このイメージで暮らして,建築が物心両面から生活を支えてくれました。
 「広い部屋」には,1階と2階に各一部屋を配し,2階には階段を昇った先には廊下もなく,リビングに直結しました。工務店の棟梁は,こんなゾーニングは見たことがないと,施工に苦労していました。工務店の担当者から,図面の筋交いを一本外せば大きな窓ができて快適と薦められた時も,光は十分で明るく,大きな窓は光と一緒に熱も部屋に入れ,快適には程遠い上,耐震構造の強さが損なわれると,説明してくれました。
 H氏の設計では,階段が吹き抜けになっていて,家に広がりができ,空気も通って,温度調節も上手くいくことになっていました。しかし,勉強机の置き場所として吹き抜けをつぶし,2階のスペースを増やす変更をしました。設計の変更にも前向きに応じてくれました。
 ある時,屋根のひさしが工務店標準より長くなっていて,夏の高い昼の太陽を遮って,熱を減らしていることに気づきました。施主の知らないうちに,工務店に強く要望して伸ばしてくれたそうです。この部分では,工務店の儲けが圧縮されたでしょう。長いひさしがなかったら,夏は暑さにあえいでいるか,エアコンの電気代の出費が大きくなっていたことでしょう。
 支配が強烈な建築家は多いです。平松剛『光の教会:安藤忠雄の現場』(建築資料研究社 2000)では,コンクリート壁の十字のスリットに,当初は,雨・風・雪が吹き込む想定で,ガラスが嵌め込まれていなかったそうです。国立新美術館の展示(2017年9月)では,1/1実物サイズの再現で,ガラスが入っていませんでした。話題になる建築を得るには,強烈な才能との対峙が必要です。建築って面白い!プロってすごい!

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2019年09月15日

「本と大学と図書館と」 -11- 共愉

 共愉(conviviality)という言葉に出会ったのは,古瀬幸広;廣瀬克哉『インターネットが変える世界』(岩波新書432 1996)です。“みんなでワイワイがやがやと楽しい「共愉的な道具」として世界を変える力を秘めています”(p.189-91)に,大いに共感したのは,20年以上前でした。
 コンヴィヴィアリティ(conviviality)は,思想家のイワン・イリイチによる用語で,辞書的には「宴会気分,陽気さ」という訳語があてられ,イリイチの訳本では,自律共生や,自立共生と訳されています。「みんなで一緒にいきいき楽しい」や「みんなでワイワイがやがやと楽しい」というニュアンスがあります。
 個人のWebサイトを1996年に開設し,その前後に,図書館からは借りずに買って読んだ本です。快楽的に「楽しむ」よりも,愉快に「愉しむ」という字面から「共愉」が気に入りました。
 道具としてのパソコンと共に,インターネット接続やWebサイト構築を愉しむ,そんな時代でした。データベース,ミュニケーションツール,更に,市民への情報アクセスの保証としての役割に注目しました。関連図書,雑誌記事があふれていました。主な図書だけでもこれだけあります。
・奥乃博『インターネット活用術』岩波書店 1996
・(社)情報科学技術協会編『情報検索のためのインターネット活用術』日外アソシエーツ 1996
・アリアドネ『調査のためのインターネット』ちくま新書 1996
・岡部一明『インターネット市民革命』御茶の水書房 1996
 “知識や情報を,自由に他のコンピュータや人間と共有し,交換することができます。そのような方法を持たなかった人間に,新たな驚きをもたらし,新たな課題をなげかけます”村井純『インターネット』(岩波新書 1995 はじめに)
 “インターネットは「世界最大の百科全書」として機能”するものの,“インターネットは「探したい」「知りたい」人にとっては革命的なツールでも,意外に生活必需品ではない”古瀬幸広『インターネット活用法』(講談社ブルーバックス 1996 p.86-87,104)
 インターネットと愉しくつきあうことで,図書館員がみんなでワイワイがやがやと愉しく,図書館サービスを提供できると,本当に思っていました。それらは,20数年後に達成されましたが,90年後半のワクワク感を,もう一度,今度は大学人として,住民として愉しみたいものです。

長谷川 豊祐(はせがわ とよひろ)
(図書館笑顔プロジェクト/元鶴見大学図書館)
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「本と大学と図書館と」-10- 大学のつくり方

 学科増設の際,大学をつくった経験のある教員から,話を伺ったことがあります。既存の短大に,大学を新設した経験談でした。学科や大学院より大変で,設置基準の大綱化前だったので,もっともっと大変ということでした。人脈を頼って,教員を集めたり,カリキュラムをつくったり,申請書類を整えたり。学生募集やお金の話は聞けませんでした。つくることの大変さと,その喜びがシンクロしているような印象を受けました。実際,大学のつくり方がどんなものなのか,ず〜っと気になっていました。図書館ができていないので,体育館に本棚を設置して,箱だけを並べて,現地調査を通ったという,嘘とも本当ともつかぬ話を聞かされたこともありました。
 清水一行『虚構大学』(光文社文庫 2006)は,1978年8月から1979年3月にかけて雑誌連載され,連載終了後,すぐに単行本化され,その後,3回目の文庫化です。息の長い経済小説といえます。舞台は1964年,学校づくりの名手と称される主人公が,学校法人創設と大学新設を同時に行うフィクションで,紆余曲折と事件が連続した結果のサクセスストーリーです。モデルになった大学があるようで,手に汗握る内容です。
 17種類におよぶ添付書類を,正,副控えの各3冊,そのうち事業計画書,予算書類,施設費,財源調書,負債償還計画書,学生納付金調書をそれぞれ30部ずつ提出,スカウトする教授・助教授の就任承諾書,履歴書,業績証明書,図書室に必要な約3万冊の図書目録,これらを大学学術局に運び込む(p.258-9)。こうした事務手続き。
 資金に関わることでは,国有林の払い下げ,当面の設立準備資金から最終的に必要な80億円の調達。更に,学長や理事の人選とパワーバランスから,癖のある学長候補者と,自分の利益しか考えないその取り巻きと,理想的な大学新設を目指す献身的な主人公,これらの登場人物の人間模様と輻輳して物語は展開します。
 著者は国の教育制度の抱える問題を浮き彫りにしようとしています。教育とは何なのか,大学とは何なのか。本質的な問題を考える基礎知識を得るには最適の一冊です。小説という表現形式により,人間模様や「虚構」の設定の中に,ドキュメンタリーや教科書からは知り得ない,教育のありのままの姿が織り込まれています。流通好きには,ネット通販のアマゾンと,物流大手のヤマト運輸の熾烈な戦いを描いた,楡周平『ドッグファイト』(角川書店 2016)も,同様のタイプの経済小説です。2冊ともお薦めです。

posted by toyohiro at 07:41| Comment(0) | 日記